「言葉は丁寧に使おう」
腰塚勇人(「命の授業」講演家)
『致知』2013年3月号
特集「生き方」より
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※越塚勇人(こしづかはやと)プロフィール
1965年、神奈川県生まれ。
元・中学校体育教師。元・養護学校教師。
大学卒業後、「天職」と思えた中学校の体育教師になる。
学級担任、バスケット部顧問として「熱血指導」の日々を送る。
2002年3月1日、人生を大きく変える事故が起こる。
スキーでの転倒で「首の骨」を折り、奇跡的に命は取り止めたものの、
首から下がまったく動かなくなる。
当時、医師からは
「一生、寝たきりか、よくて車イス」の宣告を受け、
あまりの絶望に「自殺未遂」をする。
その後、妻、両親、主治医、看護師、生徒たち、
職場の同僚などの応援と励ましを受け、
「自分の命があらゆるものに助けられ、生かされていること」に気づき、
「笑顔」と「感謝」と「周りの人々の幸せを願う」ことにより、
奇跡的な回復力を発揮する。
そして、「下半身と右半身の麻痺」など、身体に障がいを残しながらも、
4ヵ月で現場に復帰し、中学3年生の担任を務める。
主治医からは「首の骨を折って、ここまで回復した人は、
治療した中では、腰塚さんだけだ」と言われるほどの「奇跡の復活」を遂げる。
その体験を「命の授業」として6分ほどの「ムービー(動画)」にして公開したところ、
30万人を超える人々の目にふれることとなる。
2010年3月に、「命の授業」の活動に専念するため、22年間務めた教員を辞職。
同年5月に『命の授業』(ダイヤモンド社)を出版。
2010年2月に『感謝の授業』(PHP研究所)を出版。
現在「命の授業」の講演家として、自らの経験を元に、
「命の尊さ」「生きていることの素晴らしさ」「ドリームメーカーの大切さ」
「命の喜ぶ生き方」を、全国の小学校、中学校、高校、
そして一般の方々に伝える活動をしている。
全国から数多くの「講演」依頼があり、講演会の参加者は、
開始からわずか2年で10万人以上にのぼる。
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実は怪我をするまで、僕は競争が大好きな人間でした。
「常勝」が信条で、人に負けない生き方を
ずっと貫いていたんです。
だから「助けて」なんて言葉は口が裂けても言えない性分でした。
それが怪我ですべて人の手を借りなければ
ならなくなりました。
僕が一番したくない生き方でした。
苦しいし、泣きわめきたいし、「助けてっ!」って
言葉が口元まで出かかってくるけど、
プライドが邪魔してそれを言わせない。
ここで弱音を吐いたら、家族に余計に
心配をかけてしまうと思うと、
なおさら言えませんでした。
皆に迷惑をかけた分、なんとかしたいって
気持ちでいたんですが、そのプレッシャーや苦しさに
押し潰されそうになってしまって……
僕はとうとう舌を噛んだんです。
自分の未来に絶望感でいっぱいでした。
本当は死にたくなんてなかったんです。
でも首から下の動かない人生、
生き方が分からず苦しかったんです。
だけど結局、死に切れなかった。
あとには生きるという選択肢しかなくなりました。
じゃあ明日から前向きに生きられるかといったら、
それは無理です。
自分を押し包む苦しさが
なくなったわけではありませんからね。
次にしたことは将来を手放すことでした。
自分の将来に期待するから苦しむ。
だったらその将来を手放してしまえばいい。
周りに何を言われても無反応になりました。
そんなある晩、苦しくて寝つけないでいると、
看護師さんが声をかけてくれました。
「腰塚さん、寝ないと体がもちませんよ。
睡眠剤が必要だったら言ってね」
って。その言葉に僕の心が反応しちゃったんです。
おまえに俺の気持ちが分かってたまるかって、
無意識に彼女をグッと睨みつけていました。
その看護師さんは素敵な方でね、
僕の様子にハッと気づいてすぐに言ってくれたんです。
「腰塚さんごめんね。
私、腰塚さんの気持ちを何も考えずに、
ただ自分の思ったことを言ってたよね。
でも腰塚さんには本当に少しでも
よくなってもらいたいと思っているから……、
なんでもいいから言ってほしいです。
お願いだから何かさせてください」
看護師さん、泣きながらそう言ってくれたんです。
彼女が去った後、涙がブワッと溢れてきました。
あぁ、この人俺の気持ちを分かろうとしてくれてる。
この人にだったら俺、「助けて」って
言えるかもしれないって思えたんです。
それまで僕は周りからずっと
「頑張れ」って励まされていました。
僕のことを思って言ってくれているのが
分かるから決して言えなかったけど、
心の中は張り裂けそうでした。
俺、もう十分頑張っているんだよ……、
これ以上頑張れないんだよって……。
だから救われたんです。
あの時以来、凄く思うんです。
人の放つ一言が、人生をどうにでも
変えてしまうんだなって。
だから自分は言葉を丁寧に使おう。
言葉をちゃんと選んで、丁寧に使おうって。